第9回:「成果を出すトップ」のつくり方

コラム執筆者 コンサルタント 古賀 功亮 (こが なるふさ)

コラム執筆者

コンサルタント 古賀 功亮
(こが なるふさ)

経営トップ人材不足の時代

昨今、企業は過去経験したことのないような未知なる環境変化にさらされており、その変化にしなやかに適応することが求められていることはこれまでのコラムでも述べさせて頂いた。一度ヒット商品を世に送り出せば長期間に渡って業績が安定する時代は終焉を迎え、「成果を出せるトップ」の手腕のもと、1年1年を真剣勝負で相対し、いかに勝機を見出すかが求められる時代へと変化を遂げつつある。しかし今、「成果を出せるトップ」は主に2つの育成に関連する事由により求められるポスト数から絶対的な不足を強いられている。
ひとつは、現在の会社や日本経済そのものを作り上げてきたような強力なオーナーシップを持つ経営者の下、従っていれば深く考えなくともある程度の成果が出せていた時間を長く過ごしたが故に、次世代を担うべきミドル世代が総じて育っていないこと。もうひとつは、トップに求められる能力のそのもののハードルが上がっており、予測もつかないような未知の環境変化に柔軟かつスピーディーに対応できるような人材を社内で育成しようにもなかなか育てられないことである。
そのような時流の中、優秀なトップ人材をいかにして外部から獲得するか、または、いかにして「成果を出すトップ」を確保(育成)し続けるかが企業の緊急課題のひとつとなっており、近年、弊社に対してもこの命題で相談を受けるケースが増加している。今回のコラムでは、長期的に確保し続けるという観点から外部からの確保ではなく、社内からの確保(育成する)の観点から述べさせて頂く。

経営トップに求められる能力とは

経営トップに求められる能力は、これまでも様々なところで議論され、時代と共に多かれ少なかれ変化を続け、未だ解は得られていないとも言える。マーサーではトップに求められる能力は個々の企業がおかれている状況により、差異や程度の違いはあるとしつつも、PDSサイクルを円滑かつ効果的に実行できる能力と、それに加え3つの力が重要だと考えている。1つ目は、会社のあるべき姿を実現するために、痛みやリスク、過去の栄光やしがらみにとらわれず今あるものを捨てきることができる「斬る力」、2つ目は会社が進むべき新たな道筋をゼロベースから描き、それを一からでも築き上げる「創る力」、そして、3つ目に社内外に対し、自ら示したビジョン・バリューを体現しつづけ、社内外に対して輝き続け、影響力を発揮し続ける「輝(あらわ)す力」の3つである。PDSサイクルの実現に加え、この3つを体現できる人材が企業を牽引し成功へと導くのである。

経営トップに求められるスキル

経営トップをどう育てるか

では、その経営トップはどうやって育成することができるのであろうか?その育成には大きく3段階のステップが必要となる。

最初のステップは、経営トップの候補者が候補者群のひとりである現場のリーダー時代(ミドルの時代)での実施が必要となり、基盤となるPDSサイクルの実行力を道場アプローチ等で確実に向上させる(詳細は“第6回:Plan-Do-Seeサイクルにドライブをかける人材育成”を参照)。
次のステップは、候補者が現場で実力を発揮し、候補者の数として絞られてきた段階で、実際に経営トップとなった際を想定した様々なことを準備、体験させることが必要となる。
ジャンボジェット機のパイロットは実機で飛行する前に、実機そっくりのフライトシュミレーターで、エンジンが停止した場合やテロが発生した場合等の、想定されうるすべてのトラブルに対しての訓練を繰り返し実施している。これを実施することで、実際の飛行中にトラブルが発生しても、一度経験したことのあるトラブルとして冷静に適切な対応を実施できるというのである。トラブルが発生してから初期対応の検討をはじめていては大惨事となってしまう可能性が高いのである。
同様に、経営トップになってからトップの視点で物事を捉え始めるのではなく、トップになる前に、ありとあらゆる状況を想定しつつ、それに対応できる力を養う必要がある。それには既存の道場の視点を完全に経営トップにまで引き上げ、長期的な視点を含む様々な課題を投げかけ、参加者間で議論が出尽くすまでディスカッションを実施させる必要がある。そのディスカッションの継続により、候補者は視点を高く持ち自社にとって何が最も必要で、何をやるべきでないかを自ら認識することができるようになる。人事部門はその様子を観察し、次の経営トップとして誰がふさわしいか、その対象者に何が不足しているかを見極めることもできる。
そして最後のステップは就任した後である。経営トップに就任したからといってそれで終わりではなく、トップに対する支援を継続し、トップを孤独にさせない工夫が必要となる。多くの経営トップは就任当初は特に、良い意味でもトップであるが故に口に出して言えないことを多く抱えており、その悩みの整理・解決に多大な時間を費やしながら孤独と戦っている。トップといえど、常に正しい整理・解決策の立案ができるわけではなく、時には道を誤り思いもよらない事態を招いてしまうこともある。トップが輝き続ける為にはその抱える膨大な量の悩みを打ち明け、現在の役割や立場を超え、第3者視点で対等に対話ができる人材を準備する必要がある。第3者とのディスカッションやコーチングを通し、経営トップは自己のビジョンや戦略を客観的に振り返り、修正し、言葉の重みを増し、確固たる自信を持って“輝き続ける”ことができるようになるのである。
人事部門は候補者の評価・選別からこの3つのステップを社内外のリソース等を効果的に利用しながら継続的に実施してゆくことが必要となる。この計画的な人材育成が企業の成功する鍵のひとつとなることはもはや言うまでもない。

経営トップ育成に必要な3つのステップ

では、ここまでのことを実施しトップを育成すれば必ず成果は出せるのであろうか?答えはもちろんノーである。トップを育てれば成果が出るということは決してなく、今回までのコラムで述べてきた内容を企業全体で計画的に取り組み、結果を振り返り、次の手を打つという文字通りのPDSサイクルをスピーディーに繰り返し実施するしか道はない。このサイクルを諦めることなく継続的に実施することで企業は成功との距離を確実に縮めてゆくのである。

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